飲食店にとっての音環境
「飲食店を始めよう」
そう思いったったとき、あなたなら何から考えるでしょうか?
料理のジャンル・お店の内装・ロケーションあたりが真っ先に思いつきそうですよね。ただすでに飲食店は全国に数え切れないほど存在しており、お客様に来てもらえるお店を作るには、これまでよりさらに細かい部分で差別化を図る必要があります。
その1つに挙げられるのが「音環境」です。
人は外部のさまざまな事象に対して、五感を通じて快・不快を感じます。飲食店で1番重要なのは料理=味覚(嗅覚)であることは間違いありません。店内の内装は視覚的に楽しんだり、場合によっては触れて楽しんだりもできますね。これらは全てとても大切な要素ですが、残る1つの感覚=聴覚も、同等に考えるべきではないでしょうか。
そこで今回は飲食店を経営する上での音環境について、騒音問題と付加価値という2つの側面から紹介していきます。
飲食店の騒音問題
飲食店における騒音問題はさまざまありますが、大きく「店内での問題」と「店外との問題」の2パターンに分けられます。
店外との騒音問題
店内のBGMや人の声が大きいと、近隣の店舗や住民とのトラブルに発展するケースがあります。繁華街のお店であればこういった問題は起きにくいですが、住宅の近くやマンションの1階などでお店を開く場合は、特に注意が必要です。
直接苦情を言われるだけでも問題ですが、警察に通報されてしまったら、営業停止を余儀なくされる可能性もあります。また地域によっては条例で飲食店の騒音問題を規制しているケースもあるので、開店前にチェックしておいた方が良いかもしれませんね。
店内での騒音問題
耳に優しい環境というのは、人が居心地の良さを感じる理由の1つとして挙げられます。静寂が好きな人もいれば、少しざわざわした雰囲気が好きという人もいるかと思いますが、ある閾値を超えてしまったら不快に感じる人が圧倒的に多くなるようです。
とある学生街にあるファーストフード店に入った際、不快に感じるレベルで大きな音量のBGMが流れていたことがありました。これは逆に学生の長居を防止するために、通常より大きな音でBGMを流していたと推測できます。
耳障りな空間に長く居たいと思う人は、恐らくいないでしょう。回転の速いお店ならそれで良いのかもしれませんが、過度にやってしまうと、そもそも人が来なくなってしまいます。ましてやアルコールを提供するような、長時間滞在を前提とした飲食店では、BGMにより気をつけなければならないでしょう。
店内に潜む騒音問題と防音・遮音方法
それでは、次に店内の騒音問題にフォーカスして、具体的に騒音となり得る音についてと、騒音に対する防音や遮音などの対策について紹介します。
騒音問題に発展する音
1.人の声
人の声は、少人数であればそこまで問題にならないですが、数が多くなれば騒音として認識されてしまいます。特に居酒屋や若者向けのお店の場合は、より声が大きくなる傾向があります。声の問題はお客様同士のトラブルになってしまうので、問題が起きないように店内のレイアウトを考える必要がありますね。
2.食器・フォーク・ナイフなどの音
陶器がぶつかる音や金属同士が擦れ合う音も、人によっては騒音と感じることがあります。食べ終わった食器を片付けるときに、気を遣っていても音が出てしまうことがあるでしょう。とりわけ忙しい時間帯においては、より注意しなければならないのに片付ける量が多いので、意外と解決が難しい問題になり得ます。
3.大型の調理器具を使った調理音
飲食店用の大きなフライパンや鍋を使って料理をすると、それだけで大きな音が出てしまいます。また業務用の電動ミルなど、使うたびに必ず騒音に近い音が発生する器具もありますね。最近内装にこだわったオープンキッチンタイプの店も増えていますが、キッチン内の音がうるさくて楽しめなかったら、せっかくこだわったレイアウトも台無しになってしまいます。
4.BGM
本来であれば店内の雰囲気を良くするはずのBGMも、使い方を間違えれば騒音になってしまいます。仮に音量が抑えられていたとしても、あまり考えずに既成の音楽を流していたら、会話を楽しみたい人にとって邪魔な音として捉えられる可能性もありますね。店内で流すBGMを最大限効果的に活用したいなら、楽曲を厳選して流す必要があるでしょう。
店内の騒音問題に対する防音・遮音対策
1.壁に布製の装飾を飾る
最近の店舗内装におけるトレンドとして、ガラス材や石材を使うことが多いようですが、これらの素材には音を反射しやすいというデメリットがあります。それを防ぐ方法として、壁に布やフェルト生地の装飾を飾り、反射を抑えるという手法が挙げられます。
2.吸音材を貼る
上記にある装飾品で対応するだけでは状況が改善しない場合、音を吸収することに特化した専用の吸音材を使用すれば、さらに高い防音効果が期待できます。ただ吸音材のデザインが限られてしまうので、理想とする店内の雰囲気が維持できないケースもあるようです。
3.テーブルごとに仕切りを設置する
遮音対策として知られているのは、ポータブルな仕切りを各テーブルごとに設置する方法です。お客様同士の会話を遮ることで、騒音問題を回避できる可能性はありますが、レイアウト時に想定していた導線が確保できなくなるなどの、別の問題が発生するリスクも十分に考えられます。
4.飲食店に特化したBGMを使う
先に述べた通り、店内で流すBGMは雰囲気を演出するための武器になると同時に、使い方を間違えれば騒音になってしまう諸刃の剣といえます。飲食店をオープンするとき、他に多くのことを考えなければならない状況で、BGMを1曲ずつ選曲するのは難しいかもしれません。そんなときに飲食店に特化をしたBGMがあれば、選曲の手間を省けるのはもちろん、そのお店ならではの価値が得られそうですね。
音環境による付加価値、ブランディングとは
それでは音楽による付加価値とはどのようなものが考えられるでしょうか。それを知るためのちょっとしたエピソードを紹介します。
以前、知り合いの飲食店にお邪魔した際にこのようなことがありました。そこはカジュアルなイタリアンレストランで、デートで使うのにちょうど良い雰囲気のお店でした。
そのときもカウンター席に1組、20代と思われる男女のカップルが座っていたのですが、あるタイミングで、お店のマスターがライティングを少し暗くし、店内BGMの音量をわずかに上げたのです。すると2人の距離がぐっと近づいたではありませんか。その結果、気分を良くしたのか追加でお酒を何杯か注文をした後、彼らはとても満足そうに帰っていきました。
このように、BGMによる些細な変化がお客様の満足度を向上させ、さらに売り上げアップにも繋がるのです。この例ではマスターによる粋な演出が光りましたが、個人のセンスに頼っていては安定した経営を維持するのは難しいですよね。音環境を常に良好な状態にしたいなら、もっと根本的な部分から変えていく必要があるのかもしれません。
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