新たな聴覚体験へ 騒音と調和する音のデザイン
- 神山聴景事務所 株式会社
- 5 日前
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更新日:3 日前
人は一日24時間、絶え間なく音に囲まれて生活しています。その中で、最も多く耳にしているのは騒音ではないでしょうか。もしその音がストレスの原因となったり、聴覚過敏を引き起こす要因になっているとすれば、まさに「塵も積もれば山となる」を体現したようなストレスと言えるでしょう。
予期しない音が聞こえる状況の中で、気を紛らわせるために音楽を聴くこともあります。しかし、主張の強い音楽は感情を大きく動かしてしまい、かえって負荷になることもあります。
そうしたときにうまく機能するのが、アンビエント・ミュージックです。
筆者はこの音楽にかなり助けられました。周囲の騒音をかき消してくれることはもちろん、パニック障害のような症状が出た時にはこの音楽を聞いて気持ちを落ち着かせてくれました。ただ瞑想や集中だけじゃない使い方をここで皆さんに共有し、騒音と共生できる環境が育まれると嬉しいです。
なぜアンビエント・ミュージックは騒音と相性がいいのか
アンビエントミュージックの中でも、とりわけドローンと呼ばれる音楽は騒音と相性が良いです。
どちらも連続的な音(音が途切れず持続している様)で、音同士が重なっても違和感がありません。つまり騒音も音楽の一部として取り込んでしまうわけです。逆にリズムのある音楽は、性質が異なりすぎて騒音は騒音としての存在を消せぬままその音楽と対立してしまいます。リズム音楽であればミニマル・ミュージックが良さそうです。でも一番はドローン系の音楽でしょう。
音同士が重なるとは?
音は、その輪郭、性質から外音と重なる(調和する)音と、そうでないものと分かれます。では重なるとはどういうことか。
これが僕の頭の中にあるイメージです。

騒音に近しい性質を持った音は容易に重ねることができます。ただし、持続性のある音ならなんでもいいというわけではなく、これにも条件があります。
例えばその騒音の周波数、感覚的に高い音域寄りの音(工事音、電車の音など)、低めの音(飛行機内の騒音、交通騒音など)と分類します。高めの音に対しては中音域〜高音域を含んだ音源、低めの音については低音域〜中音域の音源を使用すると綺麗に騒音と音源が重なります。音楽的に言うとハーモニーです。
こうした取り組みは、現時点では数値的に十分な検証がされているわけではありませんが、騒音の周波数特性に合わせることで、音同士が共鳴しやすくなることは経験的に見えてきています。
一方で、周波数だけでは捉えきれない「音の形状」や質感の違いも存在します。これらを数値化することは容易ではありません。
そのため、音の質感の特徴を捉えたうえで、それに近い音を自分の耳で探し出し、ストリーミングサービスや動画配信サービスの中から適切に選び、騒音と混ぜていくというアプローチが現実的になります。
こうしたプロセスは、音を扱う仕事に携わっているからこそ可能な手法と言えるかもしれません。
オフィス環境の騒音との相性
オフィスには特定の空間に多くの音が混在しています。

様々な周波数や音質の音と共生することはできるのか、考えてみました。
オフィスの課題は大きく
・静かすぎて音をたてたり発話しづらい
・騒がしくて集中できない
・音漏れ
この3種類に分けることができます。
騒音を騒音と感じさせない音があれば、わざわざ音を遮断する必要がなくなるのではないでしょうか。(会議室は例外です)
次に各音の周波数特性を大まかに分類してみました。

これらの音の多くは、断続的に発生しています。
このような断続音に対しては、一定のノイズで覆うだけでなく、同様に断続性や揺らぎを持った音を組み合わせることが有効です。話し声のマスキングに用いられるホワイトノイズに加え、性質の近い音を重ねることで、より自然に環境へ溶け込ませることができます。
この音は、実際のオフィスに導入されたもので、雑多な環境を意図的に生み出し、些細な物音をマスキングしながらアイデア創出を促すために設計されています。
物音をマスキングするには、音質だけでなく、音の配置や発生タイミングのランダム性が重要になります。
こちらは空間の変更により使われなかった制作途中の音源です。
画像で描かれているのは、実際のオフィスを模した空間です。空間の雰囲気や用途、利用者の特性を考慮しながら、この音は制作されています。
聞こえてくる音は、一見するとオフィスとは関係のない音にも感じられるかもしれません。しかし、この「なんでもない音」こそが、サウンドマスキングにおいて重要な役割を持ちます。
弊社では、先ほど示した音の特性をもとに、こうした“なんでもない音”を設計しています。
本記事をご覧のオフィス事業者の方は、自社環境に適合するかを想像されると思いますが、この音はすべての空間に適用できるものではありません。
例えば、真っ白でミニマルなオフィスに導入しても、十分に機能しない場合があります。これは、空間の雰囲気や内装、働き方と音が一致していないためです。
そのようなシンプルなオフィスでは、まずは従来のホワイトノイズを用い、全体の騒音レベルをわずかに引き上げることから始めるのが現実的です。それだけでも、過度な静けさによる心理的な重さはある程度緩和されます。
生活環境の騒音との相性
生活環境には、完全な静寂は存在しません。
外を走る車の音。
遠くから聞こえる人の気配。
換気扇や空調の揺らぎ。
食器の音や足音。

私たちは普段、こうした無数の小さな音に囲まれながら生活しています。
しかし、それらすべてを騒音として認識しているわけではありません。
人は、ある程度の雑多さが存在する環境のほうが、かえって安心感を覚えたり、自然に集中できたりすることがあります。
これは、生活環境の音が均一ではなく、断続性や揺らぎ、不規則性を持ちながら存在しているためです。
そのため、周囲にあるさまざまな音は単体として強く意識されるのではなく、環境全体の気配として知覚されやすくなります。
例えば、隣家から聞こえる会話音をマスキングしたい場合、単純にホワイトノイズで覆うだけではなく、あえて“隣から誰かの気配が聞こえてくるような音”を再生することで、音の所在そのものを心理的に曖昧にすることができます。
もう一つは以前、工事音や車の走行音、生活音などが気になりにくくなることを目的としたBGMを制作したことがあります。
この音自体は、必ずしも生活環境音に近いものではありません。むしろ抽象的で、環境音とは距離のある音色を用いています。
しかし、音に適度な隙間や揺らぎを持たせることで、その隙間へ周囲の環境音が自然に入り込み、全体がひとつの音風景として知覚されやすくなります。
すると、外から聞こえる工事音や車の走行音、生活音なども、単なる騒音ではなく、音楽の一部のように感じられる瞬間が生まれます。
これは、音を消すというよりも、“気になる音の輪郭を曖昧にする”という考え方に近いアプローチです。
音を消すのではなく、環境の中へ自然に溶け込ませる。
それが、生活環境の騒音との相性を考えた音設計です。
新たな聴覚体験へ
アンビエント・ミュージックは、その特性上、周囲の騒音と混ざり合うことで、それすらも包み込み、音楽の一部として成立させてしまうものです。加えて、目に見える景色までもどこか洗練されたものに変えてしまいます。
これまでアンビエント・ミュージックは、主に集中や瞑想、睡眠といった用途で用いられてきましたが、外の音を取り込みながら中和する機能として捉え直し、そのうえでこれらを実践すると、従来とは異なる聴覚体験が生まれます。
特に移動中に用いると、まるでドキュメンタリー映画のワンシーンに入り込んだかのような、あるいは幻想的な情景の中にいるような感覚を味わうことができます。
想像を巡らせることが好きな人にとっては、非常に相性の良い体験かもしれません。
そもそも騒音とは、その音が存在する環境や人の心理状態によって「騒音」として認識されているに過ぎず、本来はただの音です。その音を本来の姿に引き戻し、より良い形へと変換してくれることこそが、アンビエント・ミュージックの持つ力ではないでしょうか。




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