今回は2022年10月にオープンしたイオンモール土岐の聴景デザインをご紹介します。
イオンモール土岐
皆様も一度は行かれたことのあるであろうモール。モールにはさまざまなお店が立ち並び、一日中居ても飽きないエンターテインメント空間になっています。
一方近年では、ウェルビーングや健やかな空間体験を、施設の一部で提供する流れが出てきました。
その取組みの1つである、イオンモール土岐で行った聴景デザインの取組についてご紹介します。
聴景特性 トキニワ
オープン後の音の景色を思い出しますと、テラス側ではリラックスしている方が多かったですが、声がトキニワまで漏れることはありませんでした。
夜間になると温度変化によって音が遠くまで届きやすくなりますから、夜の方が人の賑わいを感じやすい空間になっていると思われます。
反対側は駐車場になっていて、車が出入りする間隔次第では騒音レベルに多少の影響がありそうですが心配する程うるさくはならないでしょう。
聴景特性 レストラン街
レストラン街にもトキニワ同様の植栽エリアが点在しており、スピーカーはその部分に設置されています。
これらの環境でまず配慮しなければならないのは、施設内で寛いでいる人たちです。
寛ぐ時に音があると、騒がしく感じてしまいますよね。でも自然音だったらどうでしょうか?
そのように不快に感じる人は少ないと思います。
芝生エリアやそれに隣接するベンチは、さまざまな世代の人たちが寛ぐために利用します。
ではここの「音」の役割とは何なのでしょうか?
音楽はあるけど寛げる環境を実現させるには、自然音の特性を活かした聴景音(BGM)を作ることで実現できるのではと考えました。
ではその自然音の特性なども合わせて今回のデザイン方法をご紹介していきます。
聴景デザイン方法
今回のポイントは下記の2つ
・(トキニワ)アクティベーション空間の作り方
・(レストラン街)リラクゼーション空間の作り方
ではどんなことから聴景デザインを始めていったのでしょうか。
※今回も各楽器の選定理由には触れず、大まかなデザイン内容を解説します。
(トキニワ)アクティベーション空間の作り方
アクティブな空間を生み出すなら、テンポがあって明るい曲を流せばいいんじゃないの?
と思われがちです。確かに場の雰囲気は明るくはなりますが、環境を考慮してコンテンツと環境のバランスを調整しないと、そのものが持つ効果が発揮されにくくなってしまう傾向にあります。
そして大事なことがもう一点あります。それはみなさんが聴いている音楽は「積極的に聴く」ためのものであり、このような場で流すコンテンツ(当社では聴景音と呼んでいます)には相応しくないということです。
1 トキニワの聴景音
トキニワのスピーカーについては、前段で少し触れましたのでここでは演出について解説します。
植栽エリアに埋め込まれたスピーカーは、L・Rのステレオ仕様になっているため音源を再生すると…
音源ではこのように聞こえ
現場で聴くと、イメージ図のように音が行き来し立体的な音空間に仕上がります。
※ステレオ、モノラルの違い
今さら聞けないステレオとモノラルの違い
こうした植栽エリアでしばしば目にするようになってきたのがガーデンスピーカーというもので、配色を緑にし植栽エリアに馴染むようなデザインとなっているのが1つの特徴です。
また床に設置するため全方位に音が広がるような仕組みになっています。
2 トキニワの聴景デザインポイント 「ベンチ、芝生で寛ぐ人たちを想定した聴景デザイン」
上記の図にあるスピーカー付近にはベンチが隣接し、モール一階には各飲食店のテラスが並んでいます。
最近の屋外空間の演出で使用されるガーデンスピーカーは、ベンチのそばに設置されることが多いですが、スピーカーを目の前にして寛ぐのはちょっと厳しいのでは?という印象を受けます。
なぜかというと、この問題は音量と音圧に起因していて、演出を考慮すると音量は大きくなり、それに合わせて音圧レベルも上昇し、結果として騒音と圧迫感からくるストレス負荷の大きい環境になってしまう可能性があるからです。
せっかく長い時間寛ぎたいのに、そのような環境だと庭としての機能が果たせず、お客さんはすぐにその場を去ってしまうかもしれません。
そこで音に縦と横の「うねり」を付け加え、音圧による圧迫感のない環境を作ってみました。
3 聴景音の仕組み
うねりをつけ加えるとこのように永続的に音圧を受けることがなく、体感的に楽になるかと思います。これが縦のうねりです。
では横のうねりは何かというと、音をスピーカー間で行き来させることで、一つのスピーカーに音を長時間留めておかないためのデザイン手法になります。
よくお店なんかでBGMをうるさいからと音量を下げてしまうことがありますが、音の定位を操作するだけでBGMを消したり音量を下げたりする必要がなくなります。
・うねりのない音
・うねりのある音
(レストラン街)リラクゼーション空間の作り方
1 レストラン街の聴景音
レストラン街には植栽エリアがあり、鳥の囀りなどの自然音が流れています。
こうした環境との親和性と快適性向上を図るために、トキニワと同様のデザインに加えこのエリア用の手法を駆使した聴景音を作成しました。
聴景音コンテンツ
2 レストラン街の聴景デザインポイント 「意識を雑音から遠ざける聴景デザイン」
屋内且つ人々が滞留するこのエリアでは、中音域の音や減衰時間の長い音は、埋もれて聞こえにくくなります。
特にピーク時になると、多分それらの音はほとんど聞こえなくなってしまい、無意味な演出になってしまうでしょう。
そんな空間に存在する、癒しをテーマとした「植栽エリア」。これをしっかりと機能させるために、雑踏音から意識を遠ざけ、軽やかな雰囲気を創出できるような環境を作ってみました。
3 聴景音の仕組み
・雑踏音からの意識の回避
車掌さんが高い音程でアナウンスすることで、騒音下でも音が聞き取れる状況を生み出しているように、この空間でも高い音を使用して、雑踏音から意識を遠ざける環境を目指すために、音を中音域〜高音域で構成しました。
スペクトラム(波形)の右部分に棘のような波形が連なっていますが、これが今回の聴景音の特徴を表しています。
音域を下げると、下記のスペクトラムのように100〜1kHzあたりに音が集中して、雑踏音や音声もこの値に集まる傾向にあるので、ここの帯域に被る音は完全に埋もれてしまいます。
サウンドマスキングの手法は帯域を被せることで話し声を聞き取りづらくさせるものですが、商業空間で心地よさを生み出すためにはまた違った手法が求められます。
・減衰の早い音を使用
減衰は音楽用語でディケイ(Decay)と呼び、音が最初に鳴ってから減衰するまでの部分を指します。
鍵盤を押しっぱなしにしても、音は最初の音量から徐々に小さくなっていきます。
このディケイを操作すればこの減衰時間を短くしたり長くしたりすることができます。
ディケイの値が小〜大へ変化した時の音の聞こえ方
このサンプルの後半部分では音がゆっくりと減衰するのがわかりますが、あまり減衰時間が長いと今度は空間に音が残ってしまいます。
音が残ると反響して不愉快な音になりかねませんので、このディケイの値は空間を確認しながら調整していきます。
これらの情報を踏まえてぜひイオンモール土岐を体感してみてください。
終わりに
最後まで同ブログを読んでいただきありがとうございました。
皆さまに「聴景デザイン」が社会と密接なものであることをより理解していただけると幸いです。
株式会社神山聴景事務所
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