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上階の足音をマスキングできる?|足音が気になる理由と音による対策

9月25日
読了時間: 8分

足音を目立ちにくくするマスキング音を考える


上の階から聞こえてくる「ドン」「ドスッ」という足音。

一度気になり始めると、読書をしていても、仕事をしていても、あるいは眠ろうとしていても、次の足音がいつ聞こえてくるのか気になってしまうことがあります。

集合住宅における上階の足音は、一般的な話し声や屋外騒音とは少し性質の異なる音です。

そして、この違いが「音を流して目立ちにくくする」というマスキングを難しくしている理由でもあります。


神山聴景事務所ではこれまで、上階の足音に対してさまざまな音を試しながら、「消す」のではなく、足音が知覚上突出しにくい背景をつくれないかという視点から音源を制作してきました。

今回は、その考え方とこれまで制作した音源をまとめて紹介します。


上階 足音 マスキング

上階の足音は、なぜこんなに気になるのか 


上階の足音には、大きく二つの特徴があります。

一つは、低い周波数成分を含みやすいこと。

もう一つは、一定に鳴り続けるのではなく、突然発生することです。

話し声や空調音のように連続する音であれば、時間が経つにつれて背景として認識される場合があります。


一方、足音は、「ドン……ドン……」と断続的に発生します。

しかも、人が歩くタイミングは完全に一定ではありません。

この断続性と予測しにくさによって、静かな室内では一つひとつの足音が背景から突出して感じられやすくなります。

さらに集合住宅では、足が床へ加えた衝撃が建物の床や躯体を振動させ、その振動が別の部屋で音として放射される場合があります。

そのため、単純な空気伝搬音だけを対象とした対策とは考え方が異なります。



なぜ一般的なマスキングでは難しいのか


サウンドマスキングでは、対象となる音と近い周波数帯を含む背景音を加えることで、対象音を相対的に認識しにくくする方法があります。

しかし、上階の足音でこれをそのまま行うのは簡単ではありません。

例えば会話を対象としたサウンドマスキングであれば、人の声が持つ周波数帯を考慮した比較的連続的な背景音を設計できます。


ところが足音には低域成分が含まれます。

その足音を覆うために大量の低域を室内へ加えようとすると、今度はマスキング音そのものが大きく、不快な背景音になってしまう可能性があります。

また、足音は瞬間的に発生するため、そのピークを常時背景音だけで覆おうとすると、かなり大きな再生音が必要になる場合があります。


つまり、足音より大きな音を流せばよい

という考え方では、生活空間としての快適性との両立が難しいのです。

そこで私たちは、完全に聞こえなくすることより、「足音だけが室内の音風景から浮き上がっている状態を変える」ことを考えました。


「消す」のではなく、足音が浮かない背景をつくる


ここで重要になるのがサウンドスケープの考え方です。

非常に静かな寝室で「ドン」という音が一度鳴れば、その音には自然と注意が向きます。

しかし、室内にある程度の音の変化が存在していれば、同じ足音でも背景とのコントラストは変わります。

そこで、単一のノイズだけではなく、連続的な音ゆっくり変化する音足音と知覚的な共通点を持つ音など、異なるアプローチを試してきました。


1.足音とノイズを組み合わせたマスキング音


一つ目は、足音とノイズを組み合わせたマスキング音です。

上階から聞こえる足音は、低い周波数成分を含むだけでなく、「ドン」「コツ」といった音が断続的に発生することにも特徴があります。そのため、一定のノイズだけを流すのではなく、背景となるノイズの中に足音に近い性質を持つ音を組み合わせることで、実際の足音だけが室内で突出して聞こえにくい音環境をつくることを考えました。


ノイズには低域を含む成分を取り入れながらも、足音を完全に覆うほど音量を上げるのではなく、背景として無理なく再生できるバランスに調整しています。

狙いは、上階の足音を「消す」ことではありません。ノイズによる周波数的なマスキングと、足音に似た断続的な音を背景に加えることで、実際の足音との知覚的なコントラストを小さくするというアプローチです。



2.交通騒音を利用したマスキング音


二つ目は、交通騒音を背景音として利用したマスキング音です。

道路を走る車の音には、低域を含む比較的幅広い周波数成分があり、車が近づいて遠ざかることで、音量や音の高さも緩やかに変化します。一定のノイズとは異なり、こうした自然な変化を含んでいることが特徴です。

そこで、交通騒音をそのまま再生するのではなく、室内の背景として聞けるように調整し、断続的に発生する上階の足音が相対的に浮き上がりにくい音環境をつくることを考えました。


足音を強いノイズで覆い隠すのではなく、もともと都市の生活環境に存在する音を背景として取り入れることで、足音と背景とのコントラストを小さくするというアプローチです。

特に住宅での使用を想定し、マスキング効果だけでなく、長時間流したときに生活空間の背景として成立することも重視しています。


3.「散歩の音」で足音をマスキングする


これまで制作した中でも特徴的なのが、散歩中に収録した足音を利用した音源です。

これは少し違った発想です。

弊社で録音した散歩の音を編集し、繰り返し再生しても極端な違和感が生じにくい音源に仕上げています。


この音源は上階から伝わる重量感のある足音そのものを再現したものではなく、より軽い足音です。

そのため、周波数的に上階の足音を完全に覆うことを目的としているわけではありません。

着目したのは、同じ「歩行に由来する音」を背景側にも存在させることです。

室内で上階の足音だけが突発的に発生する状態から、背景にも不規則な歩行音が存在する状態へ変える。

これによって、上階の足音への知覚的な突出感や注意の向き方が変わる可能性を探っています。

これは従来の周波数マスキングとは少し異なり、音の意味や類似性まで含めたサウンドスケープ的なアプローチといえます。



一つの音源ですべての足音に対応できるわけではない


ここは非常に重要です。

「上階の足音」と一言でいっても、その聞こえ方は建物によって大きく異なります。

床構造、建物の構造、天井、部屋の広さ、上階の床仕上げ、歩き方などによって、聞こえてくる音の特徴は変わります。


さらに、人によって気になる音も違います。

そのため、「この音源を流せば上階の足音が聞こえなくなる」というものではありません。

低域を含んだ連続音が合う場合もあれば、環境音の方が過ごしやすい場合もあります。

また、そもそも音によるマスキングより、建築的な防振・遮音対策や発生源側への対策を検討すべきケースもあります。


マスキングは、そうした対策を置き換えるものではありません。


自分に合う「背景」を探してみる


上階の足音は、非常に難しい音問題です。

特に住宅では、足音を目立たなくしたい一方で、対策のための音にも悩まされたくない

という矛盾があります。

だからこそ、単純に大きなノイズで覆うのではなく、


「どのような背景音なら足音への注意が向きにくくなるのか」

「どの程度なら長時間聞いていられるのか」

「その部屋の音風景として違和感がないのか」

という視点から考える必要があります。


神山聴景事務所ではこれまで、ノイズ、環境音、そして散歩の音など、異なる考え方から上階の足音に対するマスキング音源を制作してきました。

完全に音を消すのではなく、

気になる音と、その周囲にある音との関係を変える。

これも、音環境を整える一つの方法だと考えています。


音の使い方


マスキング音を試すときに重要なのは、上階の足音を完全に聞こえなくしようとしないことです。

足音を覆い隠そうとして再生音量を上げすぎると、今度はマスキング音そのものが気になり、生活空間としての快適性を損なってしまうことがあります。

まずは「少し小さいかな」と感じる程度の音量から再生し、普段どおりに過ごしてみてください。そのうえで、足音が聞こえたときの目立ち方や、音への注意の向き方がどう変化するかを確認しながら、少しずつ調整していくのがおすすめです。



今回紹介している音源は、基本的にイヤホンで足音を遮るためではなく、室内に新しい背景音をつくるという考え方で制作しています。


スマートフォンやパソコンをBluetoothスピーカーなどにつなぎ、普段過ごしている場所の近くから小さな音量で再生してみてください。

スピーカーの位置によっても聞こえ方は変わります。必ずしも足音が聞こえる天井付近に設置する必要はなく、ベッドサイドやデスク周辺など、普段過ごす位置を基準に調整して構いません。

大切なのは、マスキング音を主役にすることではありません。

「足音を消す音」ではなく、「足音だけが浮き上がりにくい背景をつくる音」として使う。

音量を必要以上に上げず、生活の背景として自然に感じられる範囲を探してみてください。

 
 
 

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